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前回のコラムでは、人体を中心に輻射・遠赤外線暖房について、「平面であれば最適であるが、複雑形状の場合は、対流との組み合わせが効率的です。」と紹介しました。今回は、その対流について、メカニズムや特徴を紹介します。
対流熱とは、流体(気体と液体)が移動することで伝わる熱です。流体は加えられる熱により内部密度が変化します。この密度変化により流体の移動が生じ(対流)、熱が伝わります。
対流は、輻射や伝導とは異なり、遠赤外線や物質を構成する分子の運動等を考える必要はありません。対流で考える必要があるのは、流体(気体と液体)の温度変化による密度の変化についてです。
小学校の理科の授業や実験を通じ、「温かい空気は上に行き、冷たい空気は下に行く。」と言うことを習っていますので、誰でも「知ってる!」のではないかと思います。輻射冷暖房システムは、この対流も関係していますので、ちょっと振り返って考えてみたいと思います。
流体(気体:空気や液体)は、加熱され温度が上がると重さは変わらず体積だけが大きく(膨張)なり、反対に温度が下がると重さは変わらず体積だけが小さく(圧縮)なります。
これを密度に置き換えて考えてみると、流体の温度が上がるとその流体の密度は小さく(軽く)なり、温度が下がると密度は大きく(重く)なります。
この法則は、中学校の理科で習いましたね。そうです、ボイル・シャルルの法則です。
ボイル・シャルルの法則は、ボイルの法則「一定の温度の元では、一定量の気体の体積は、圧力に反比例する。」、シャルルの法則「一定圧力の元では、一定量の気体の体積は絶対温度に比例する。」と、ゲイ・リュサックの法則「気体の反応の法則」を組み合わせた法則です。
温かい空気は、重さは変わらず膨張するので密度は小さく軽くなり、冷たい空気は通常の空気より密度が大きく重くなります。これにより、暖ためられた軽い空気が上昇して、冷たい空気が下降します。
図2 ボイル・シャルルの法則&温度変化による気体の変化
つまり空気自体が移動することによって、空気と一緒に熱も移動します。このように、流体(空気)の密度が変化して、流体自体が移動する事による熱の伝わり方が、対流熱ということになります。
この流体の動きを開始する方法として、自然対流と強制対流の2種類があります。
自然対流は、自然の手段が流体の運動に影響を与える熱伝達の方法で、外部からの影響は全くありません。空気中の分子は、加熱されると密度は減少し、冷却すると拡大します。この密度変化により、対流が発生します。
自然対流のメカニズムを、熱い物体に接した空気を例に説明します。
熱い物体は、隣接する空気へ熱を伝導します、これにより物体表面の温度が下がります(落ちる)。(①)同時に、隣接する空気の温度は熱伝達により上昇します。(②)次に、この隣接する空気層の密度が低下します。その結果、空気は上向きに上昇します。(③)上昇した空気の領域へ、冷たい空気がこの地域に取って代わります。(④)その後、対流が続きます。(⑤)
これが、自然対流のメカニズムとなります。
図3 自然対流のメカニズム
強制対流は、外部手段により流体の運動に影響を与える熱伝達の方法です。
加熱(冷却)した空気を送風するエアコン等は、強制対流の代表例になります。エアコンの場合、流体の動きを生成する外部手段としてファンを活用しています。この方法は、加熱された物体から熱を効率的(強制的)に空気に伝達できるため、熱伝達は効率的となります。外部手段を投入する事で、外部ソースがもたらす回転・振動などへの対応や強制的に派生する送風への考慮が求められます。
図4 自然対流と強制対流
強制対流は、効率的な熱伝達であるため、一般産業用として、ポンプ等の押し出し機、蒸気タービン、発電機、吸引装置などに多く採用されています。身近な例として、温度が上昇するとトラブルが懸念されるパソコンがあります。パソコンの場合、小型なファンで冷却効率を上げていますが、ファン音が少し気になります。最近では、パソコン自体の発熱減少と共に、自然対流に対する技術開発も進展し、ファンレスの装置も登場してきています。
強制対流のメカニズムは、外部手段による流体運動を伴うため、流体自体の運動解析、物体からの熱伝導に係る2つの要因を解析し、調整する必要があり自然対流より複雑なメカニズムとなります。
自然対流と強制対流の主な違いは、自然対流では流体の動きが自然な手段の影響を受けるのに対し、強制対流では流体の動きは外部の手段の影響を受けることになります。
対流は、物体から空気への熱伝導を通じ、空気温度の上昇により発生します。この対流でどれくらいの熱が空気に伝達されるかは、1701年にアイザック・ニュートンが発表した冷却法則を基に算出できます。
物体から空気への熱移動量(Q)は、上記法則から、温度差と物体の表面積に比例することになります。つまり、物体と空気との温度差が同じであれば、物体の表面積が大きければ対流熱は大きくなり、高い暖冷房性能が得られる事になります。
この特性を活用し、熱交換の効率をあげることを目的として、発熱物体の素材開発や表面処理技術開発及び伝熱面積を広げるための技術開発が進められてきました。その中で、伝熱面積の拡大により熱交換効率向上策として、物体表面に突起状の構造をつけ面積を拡大したのがフィン(突起状の構造)です。
車のエンジン、電子機器の冷却、空調機器や熱交換機等、熱に関係する機械にはなんらかの形のフィンが設けられています。
電子機器の冷却、ラジエーター表面、車のエンジン冷却など、各々のデバイスに適した突起構造を持つフィンが開発され、実装効率的な対流熱処理対策を実施しています。(下図参照)
図5 様々な部位で使用されている対流熱を活用したフィン
電子機器用フィンは、発生する熱量及び部署に対応して、多様な突起構造を有したフィンを採用している。高発熱部位にはファンを組み合わせ強制対流等の対応をしています。図5(a)右図
オートバイの採用されているエンジンフィンは、走行することを前提とし、対流の方向性も考慮した配置構造になっています。図5(d) これにより、走行中のエンジンが高温になりオーバーヒートするのを防ぎ、安心快適なドライビングが楽しめます。
では、このフィン構造の中で、どのように対流が発生しているのか、図3の垂直平板を例に、コンピュータシュミュレーションした例を見てみましょう。
図6 フィンの中を流れる自然対流熱方向と熱分分布
垂直平板フィン形状の場合、空気は、フィン内面基板からの熱伝達を受け上昇し、フィンの下から冷たい空気が入り移動すると言う自然対流が成立します。熱伝達量は、フィンの表面積に比例しますので、フィンが大きく(表面積)と枚数が多くなれば、熱伝達量は大きくなります。
では、フィン枚数は、多ければ良いかと言えばそうではありません。フィン枚数を多くするとフィン平板の間隔が狭くなります。そうすると、平板間で熱が充満し、空気が流れにくくなる欠点があります。
フィン平板の枚数と温度分布に関し、コンピュータシミュレーションしたのが、図6(b)です。
間隔が狭い(ⅰ)は、内面側に放熱され熱がこもった状態になっています。一方、間隔が広い(ⅲ)は、表面付近は放熱され対流が進んでいますが、平板中間部は効果が出ていない状態になっています。
(ⅱ)は、その点バランスよく放熱されている事がわかると思います。
このように、自然対流熱伝達量を最大化するには、フィン構造設計が重要な要素となります。
対流熱にも色々な要素がある事がお判りいただけましたでしょうか。
熱に関しては、古代ギリシャのアリストテレスの4元素は(火、空気、水、土)であり、熱は自然界において重要な物質と考えられていました。熱エネルギーに関しては、18世紀初頭から蒸気機関の発明から技術発展してきましたが、核融合、スーパーコンピュータ、新型コロナワクチンの冷却等、現在も研究開発が盛んです。
今回は、対流熱に関して紹介しましたが、次回は、輻射熱(遠赤外線)と対流熱との組み合わせで、構成される輻射冷暖房の能力に関して紹介したいと思います。
ニュートンの冷却法則は、Q=αA(Tw-Ta) とシンプルです。
熱伝達率αは、ニュートンの冷却法則を変形し、下記の式で求められます。
しかし、流体内部における熱移動であり、対流方式(強制、自然)の違い、物体の設置方向(水平、垂直)、形状(平板、円筒)、長さ、材料の比熱などの複数パラメーターで変化する状態値となります。
おおまかな目安として、以下の状態値になるようです。
・自然対流における空気: 5~ 25程度
・強制対流における空気: 10~ 300程度
・強制対流における水 :100~5000程度
詳しくは、「伝熱工学」に関する書籍を参照お願いします。また、熱伝達率が計算できるサイトがインターネット上に公開されていますので、ご興味ある方は参照してください。