省エネ機器におけるヒートポンプ(原理編)

2019/06/01

​​6月に入り、すがすがしい初夏の季節となりました。​​最近、省エネ機器の代表としてヒートポンプ(Heat Pump)というキーワードが良く出てきています。ガスや石油による燃焼方式に比べ、CO2排出量の大幅削減を実現する技術として注目を集めています。​​今回のコラムでは『ヒートポンプ』を用いた冷暖房機器について3部構成でご紹介したいと思います。​​初回の本記事では、ヒートポンプの原理についてご説明していきます。

ヒートポンプとは

ヒートポンプは、ポンプで水を低所から高所へ汲上げるように、熱を低温から高温へ輸送することからこの名がつけられました。熱の輸送として、まず水で考えてみましょう。水を温めて、お湯にするには、ガスや電気等を使用し加熱する事で水を沸かしお湯をつくりますね、これは電気を熱に変換する事で実現しています。

液体や気体は高い圧力をかければ温度が上がり、圧力を下げれば温度が下がります。この性質を利用して熱を伝える冷媒の温度を調整して、冷媒に接している空気や水の温度を変えて利用します。冷媒の温度と圧力を圧縮機と膨張弁で調整し、冷たい冷媒に接する水や空気から、熱い冷媒に接する水や空気に熱を移動させてエネルギーとして活用します。​​空気や地熱、廃温水などの熱エネルギーを利用することで通常のヒーターなどに比べて高いエネルギー効率を得ることができます。​​加熱が目的のものと、冷却が目的のものとがありますが、どちらも基本的なサイクルは全く同じです。

ヒートポンプの種類として、空気の熱を使う空気熱ヒートポンプ、地下水を使う水熱源ヒートポンプ、地中に水平に備え付ける水平採熱方式の地中熱ヒートポンプ、地中に垂直に備え付ける垂直採熱方式の地中熱ヒートポンプがあります。導入する施設の環境などに合わせて最適な種類を選ぶ事ができます。また、冷媒を電気で圧縮するものを電気ヒートポンプ、ガスエンジンで圧縮するものをガスヒートポンプ、水溶液の濃度差による蒸気圧を利用したものを吸収式冷凍機と呼びます。同じヒートポンプでもどの燃料を利用するかによってコストや原理が変わってきます。家庭用に用いられていることの多いヒートポンプ式給湯器のエコキュートは電気ヒートポンプです。​​

ヒートポンプの原理

身近にある冷蔵庫で考えてみましょう。冷蔵庫内は、零度以下の冷凍室、5℃程度の冷蔵室等から構成されています。冷蔵庫が設置されるのかは室内であり、庫内と庫外では温度差があります。冷蔵庫は、この温度差を気化熱の原理を応用し熱移動を実現しています。​​ 庫内の熱移動は、圧縮⇒凝縮⇒膨張⇒蒸発のサイクルで実現し、このサイクルを繰り返す事で、冷蔵庫の中を冷やしています。  ​​このように、冷媒が圧縮機によって圧縮されます。理想気体の状態方程式により体積が小さくなると、圧力と温度が上昇します。

状態方程式では以下の通りです。​​(気体の状態方程式)PV=MRT(P:圧力、V:体積、M:質量、R:気体定数、T:温度)

次に高温高圧になった冷媒が熱交換器(凝縮器)を通り、熱を奪われて液体になります。エアコン等での室外機に当たります。熱交換器は2つの液体の温度の熱エネルギーを受け渡す機器で、液体の間に温度差があれば勝手に熱交換が行われます。ここで水を利用して熱を奪うことでお湯を作るのがヒートポンプ給湯器ということになります。その後、膨張弁(減圧器)によって圧力が低下します。圧力が低下すると一部が気化し、気化熱によって温度が下がります。温度が下がった状態でもう一方の熱交換器(蒸発器)を通り、もう一方の液体の熱を奪います。​​冷蔵庫(前述)や冷房機はこの原理によって冷やしています。このように気体の膨張と収縮による温度変化を利用して熱を移動させるのがヒートポンプです。​​動力源が圧縮するときのエネルギーのみというところが最大の特徴です。

図1

熱サイクル

熱サイクルは、18世紀半ばから19世紀にかけて起こった産業革命で、如何に効率よく燃料から動力を生み出すかと言う事から考案されました。1824年フランスの物理学者ニコラ・レオナール・サディカルノー(1796~1832年)が考案した理想的な熱サイクルです。考案者の名前をとり、カルノーサイクルと呼ばれています。

ニコラ・レオナール・サディカルノー

このサイクルは、理想的なエンジンの動きを表し、その効率は理論上の最大値を表します。ここでいう効率とは、燃料の熱がどれほど動力としての仕事に変化したかと表します。​​ カルノーサイクルは、高温熱源の温度と低温熱源の温度だけで計算できるのも大きな特徴です。

カルノーサイクルの工程は、次の4つの工程、等温膨張(温度一定で熱源から熱をもらい膨張)​​ 断熱膨張(熱のやり取りをなくし膨張させる)、等温圧縮(温度一定で放熱させて圧縮する)、断熱圧縮(熱のやり取りをなくし圧縮する)になります。​

図2

​ 初期状態はピストンの中に空気が入っており、①ここに高温の熱源を近づけると熱が伝わりピストン内の空気が膨張します。これを等温膨張と言います。外部との熱のやり取りがない状態で、②内部空気が膨張すると、熱力学の法則から温度は低下します。これを、断熱膨張と言います。次に、③低温熱源を利用し等温変化でピストン内の空気から熱を奪います。等温膨張とは逆の動きです。これを、等温圧縮と言います。この時、内部の圧力は下がり体積は小さくなります。熱のやりとりがない状態で、④気体が圧縮され初期状態にもどります。これを断熱圧縮と言います。カルノーサイクルは、高温熱源と低温熱源を利用して言います。一連のサイクルを完結させます。このサイクルが、図1の冷蔵庫の冷凍サイクルと同じだと言う事に気づかれると思います。

熱機関には、圧力と体積の関係を表したPV線図と温度とエントロピー※1(entropy)の関係を表したT-s線図というものがあり、カルノーサイクルのPV線図とT-s線図は次のようになります。

図3
図4

それぞれの状態に1~4の番号がついています。赤い矢印が受熱、青い矢印が放熱を表しています。​​ カルノーサイクルでは、1⇒2⇒2⇒3⇒4と状態に遷移します。​​1⇒2:等温膨張、2⇒3:断熱膨張、3⇒4:等温圧縮、4⇒1:断熱圧縮の動作となります。

これらの動作は種類に関係なく、気体、高温熱源、低温熱源の3つが揃えば実現できます。断熱変化は外部との熱のやり取りがなく「等エントロピー変化」となります。​​実際の熱機関では、ピストンとシリンダーとの摩擦などによりエントロピーは増大しますので、これは理想状態といえます。このサイクルを逆向き回転させたのが逆カルノーサイクルであり、この原理を応用して、空気中から熱を集めて熱エネルギーに変換しているのが「ヒートポンプ」の原理と言うことになります。

※1:エントロピー:熱力学および統計力学において定義される示量性の状態量で、熱力学では、断熱条件下での不可逆性を表す指標。物体や熱の混合度合いのこと。

ヒートポンプの利用範囲

カルノーサイクルを応用したヒートポンプは、冷却用としての開発が進み1850年頃氷を製造する製氷機として普及がはじまりました。

図5

その後、1950年代に入って冷房用のクーラーとしての普及が始まりました。初期エアコン※2は冷房のみで、1970年頃暖房を加えた冷暖房エアコンが登場して以後普及し、現在では産業用分野の利用が拡大しています。

※2:エアコン:エアーコンディショナー(air conditioner)の略で、室内の空気の温度や湿度などを調整する空調設備のことです。

ヒートポンプは、対応温度が、-100℃~100℃であり、一般的に熱が利用される様々な分野に対応できるようになりました。​​以前は、冷蔵庫や冷房などの冷却用途でヒートポンプの利用が中心でしたが、熱交換技術向上等の技術開発により、現在では、暖房(特に寒冷地)や給湯、蒸気など、様々な加熱用途での普及拡大が進展し、多様な業種にも活躍の場が拡がり、対応エリアも拡大してきています。

図6

おわりに

いかがでしょうか?今回は、『ヒートポンプ』の原理についてご紹介しました。今回ご説明したヒートポンプを用いた暖房機器は近年注目を集めているかと思います。ご家庭やオフィスなどで導入を考えてみてはいかがでしょうか。次のコラムでは、ヒートポンプ冷暖房機器のメリット・デメリットをご紹介をします。少しでも皆様のご参考になれば幸いです。


雫 二公雄

日立製作所でインターネット等情報関係分野を担当し、その後、中堅企業にて金属表面改質技術の研究開発を取り纏めた後、ベンチャーや大学、研究機関等の新技術の事業性評価や管理を担当。現在は、半導体関係、二次電池、中小企業事業性評価支援等を推進している。現在は、日立ITユーザ会社会システム分科会長、長崎県ロボット事業県都委員会検討委員、一般社団法人日本ゲルマニウム研究学会理事長などを務める。

Produced by

The EDGEWATER's Corporation

Manufactured by

PROTOTECH Incorporated