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「輻射冷暖房」「輻射式冷暖房」「輻射パネル」などといわれる空調機・・・
すでにこの時点で「?」マークがいっぱいの方も多いと思います。「輻射」という言葉自体、日常生活ではほとんど聞かないですからね。その知らない単語に「冷暖房」とつけられても、正直わかりずらいですよね。
このコラムでは「輻射式冷暖房のいろは」と題し、輻射冷暖房をあまり詳しくご存じでない方、もしくはこれから輻射冷暖房についてもっと知りたい方に対して「輻射冷暖房」とはどういうもので、どうして「空調機として成立するのか」を、やさしく解説していきます。たまに少し難しい説明があるところもあるかと思いますが、ぜひこの機会に、ぜひ「輻射冷暖房」について興味を持っていただきたいと思います。
温度を持つ物質からは全て、その温度に応じた赤外線が出ています。輻射(放射)とは、熱の移動方法の一種で、温度の高い方から低い方へ、移動する現象のことをいいます。
この輻射(輻射熱)の原理を利用し、人体と輻射パネルとの間での熱移動により冷暖房を実現しています。セラミックスヒータなどから放射された遠赤外線は、光と同じ速さ(約30万Km/秒=1秒間に地球を7.5周する速さ)で空間を直進し、物質表面に当たります。
遠赤外線の周波数は、プラスチェックス、塗料、繊維、木材、食品や人間を含む動物を形成している分子の振動とぴったり合うので、これらの物質に照射された遠赤外線は吸収され、構成要素である分子の振動を活発にして、温度上昇を招くわけです。
物質の分子振動周波数が遠赤外線の領域と一致していることが、加熱等の分野に幅広く利用されている理由です。遠赤外線以外の周波数(波長)では、「周波数(波長)が合わない」ので、こういう効果が小さいのです。
物体から輻射される電磁波は、フランクの法則、ステファンボルツマンの法則、ウィーンの変位則、キルヒホッフの法則の4法則で説明され、中学校理科で一部習っていますので馴染みあるかと思います。
物体から輻射される電磁波は、物体の素材ではなく温度で決まるほぼきまります。
物体から輻射(放射)される電磁波の波長に関する方式として、プランク公式とウィーンの変位則があります。(図1)
λ=2897/T〔μm〕
ウィーンの変位則
物質から輻射される電磁波ピーク波長は、放射体温度が高くなるにつれて、短波長側にシフトします。
例えば、36℃(絶対温度T=36+)273=309K)の体温を持った人が輻射する電磁波のピーク波長(λ)は、2987÷309=9.4μmとなります。(図1)
電磁波と遠赤外線の位置関係は、図2の通りです。
遠赤外線の主要波長である2.5~30μmが、多くの物質の固有振動領域と重なっており、物質の乾燥等含め、2.5μm~30μmが産業分野で主に利用されています。
「遠赤外線は体に深く浸透するので、体の芯から温かくなる」というように書かれた暖房器具の広告が見受けられますが、これは誤りです。遠赤外線の持つエネルギーは、皮膚表面から約200μmの負荷さで、ほとんど吸収されてしまい、熱にかわります。その熱が血液などにより体の内部(芯)まで効率よく伝わり体を温めているのです。(図3)
近赤外線は、皮膚表面から数ミリメートルの深さまで浸透します。この特徴を使用し、指や手のひら内部の静脈模様を近赤外線で調べる事で個人を認証する方法が銀行等で導入されています。
物質から輻射されるエネルギー量は、図1で示されるように、物質の温度が高くなるにつれて大きくなります。物質から輻射されるエネルギー量(E)は、プランクの法則を全波長に対して積分する事で得られ、絶対温度の4乗に比例する形でえられます。これを、ステファンボルツマンの法則といいます。
物質を輻射連暖房パネル(遠赤外線)で暖房する場合、輻射パネルから物質へそれぞれの温度を4乗した値の差に比例した熱が流れます。輻射パネルの温度は、常に物質より高く維持できますので、熱流は暖房期間中あまり変化せず維持されます。熱がどんどん物質へ流入しますので、効率のよい暖房ができます。
E=σ・T4 〔W/m2〕 σ:
ステファンボルツマン定数=5.6697x10―8
熱風暖房(温かい空気で暖房)などの場合には、熱風温度と物質表面温度の差に比例した熱流が流れます。この場合、すぐに物質表面温度が熱風温度に近づくので、両者の温度差がなくなり、熱流は低下し、熱流はなかなか物質へ入っていかなくなります。
対象物質が平面であれば、遠赤外線暖房は最適であるが、雑形状の製品には赤外線暖房(加熱)のみでの対応は難しいので対流と組み合わせた暖房(加熱)が効果的となります。
今回は、第一回として「輻射冷暖房の原理と特徴」について説明しました。輻射の原理について少しご理解いただけましたか?物理が苦手な方には少し難しい言葉もあったかと思いますが、昔学校で習っているはずですので、この機会に思い出してみてはいかがでしょうか。
「輻射」という言葉自体が我々の私生活にあまり馴染みがないので、慣れるまで少し時間がかかるかとは思いますが、原理を理解してしまえば、すぐに慣れていただけると思います。
次回は、輻射熱と自然対流熱について紹介します。お楽しみに!
株式会社シアーコーポレーション 技術顧問
日立製作所でインターネット等情報関係分野を担当し、その後、中堅企業にて金属表面改質技術の研究開発を取り纏めた後、ベンチャーや大学、研究機関等の新技術の事業性評価や管理を担当。現在は、半導体関係、二次電池、中小企業事業性評価支援等を推進している。シアーコーポレーションの技術顧問の他にも、日立ITユーザ会社会システム分科会長、長崎県ロボット事業県都委員会検討委員、一般社団法人日本ゲルマニウム研究学会理事長などを務め、輻射冷暖房の普及に取り組んでいます。