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なぜ「輻射熱」で冷房ができるの?-輻射式冷暖房における冷房の原理|THEAR

ブログ・コラム2022/07/17

輻射式冷暖房システムにおける冷房の原理

夏本番になってきました。前回までは、輻射冷暖房を熱の輻射(放射)に関して解説しました。今回は、輻射熱による冷房を紹介します。

人は、図1に示しますように、「伝導、蒸発、対流、輻射」による熱伝達をしています。輻射パネルとの間では、輻射熱(赤外線エネルギー)による熱交換をしている事になります。では、どのような熱交換をしているか見てみましょう。

図1 人と輻射パネルの熱伝達

人は、円柱に近い形なので、体表面から放射する輻射エネルギーは、側面からの放射が多くなります。図3は、輻射パネルを壁面に設置し対面面積を同じとした場合、夫々が放射する輻射エネルギー及び吸収する輻射エネルギーを、キルヒホッフの法則を基にその関係を示しています。人及び輻射パネルの輻射率は高いので、反射はほとんど発生しないので、表記には入れていません。人の体温36.9℃、輻射パネルの設定温度15℃と仮設定し記載しています。

(1)赤外線の「吸収」「反射」「透過」

図2 入射、反射、吸収、透過の関係

 物体は、赤外線エネルギーを放射(輻射)していますが、外部からの赤外線エネルギーも「吸収」「反射」「透過」しています。この関係を図2で示します。入射したエネルギーは、物体表面で一部反射し、残りは物体に吸収され、その中から物体を透過しています。エネルギー保存の法則から、入射=反射(ρ)+吸収(α)+透過(τ)が成立します。

ε(輻射率)=α(吸収率) 

 キルヒホッフの法則

 物体は、赤外線を吸収すると温度が上昇し、放射(輻射)すると温度が低下します。物体の温度が一定の「局所熱平衡状態」で、放射(輻射)率と吸収率が等しいという法則をグスタフ・キルヒホフが提唱し1860年に発見されました。

(2)輻射熱エネルギーの移動

 人及び輻射パネルは、各々輻射熱を発し、輻射された熱は人及び輻射パネルに吸収される事になります。物体から輻射されるエネルギー量は、スタファンボルツマンの法則で表され、物体からの輻射熱エネルギーは下記計算式となります。(コラム3で説明)

Q=AσεT

 ステファンボルツマン定数

A:輻射パネルの面積、σ:ステファンボルツマン定数
ε:物体の輻射率、T:物体の絶対温度
     ※人は、ほぼ円柱に見做せますので、この点を考慮した計算が必要となります。

(3)輻射エネルギー

温度・表面積が同じ場合、放射する輻射エネルギーは輻射率に比例して大きくなります。同様に、吸収されるエネルギーも吸収率(輻射率)に比例します。物体の輻射率は、素材と表面状態で決まり、おおよその輻射率は表1の通りです。

 表1 材質によるおおよその輻射率(ε)

吸収率は、キルヒホッフの法則より、輻射率と同じである事から、物体間で交換される輻射熱エネルギーを計算できます。

Q=Q1-Q2

Q:交換される熱エネルギー
Q1:人体の輻射エネルギー、Q2:輻射パネルの輻射エネルギー

人と輻射パネルとの間で交換される輻射エネルギーは、反射がない事から、(2)及び(3)の方程式より計算できます。

冷房時の人体とパネルの関係性

人の体温:日本人の平熱

最初に温度から、見てみましょう。日本人の平熱は、平均36.89度とされています。1日のうちの体温変化は、ほぼ1度以内におさまるのが普通です。(1957年田坂定孝先生による研究報告。全体の73%が36.89±0.34℃の範囲にある。)

人は、この平熱体温により、360度全方位的に輻射エネルギーを放射しています。輻射率は、0.98とほぼ黒体と同じですので、効率が良いです。一方、輻射パネルはアルミニウム製で表面をアルマイト加工又は塗装していますので、輻射率は0.8~0.9となります。人に比べ10%程度少ないです。物体が、同じ温度であれば、輻射・吸収バランスは確保されますが、反射率(ρ)により、空間温度上昇につながります。

図3人と輻射パネルの関係

 冷房運転には、空間温度を考慮した輻射パネル温度設定が重要となりますね。温度を下げた場合は、放射する輻射エネルギーは、人の方が大きいので、輻射パネルは、入射熱を吸収する事になります。これにより冷却される事になります。この冷房は、扇風機、エアコン等の風を利用した肌表面からの強制熱放射ではなく、自然熱輻射であり、人体への負担は軽減されます。自然熱輻射による冷房になるので、外部の暑い環境から輻射冷房のある部屋に入った時などは、涼しさを感じるのに時間を要します。

鍾乳洞はなぜ涼しい?

洞窟等に入った場合を考えてみましょう。入口を入る時は、それほど感じないかもしれませんが、数分のちには、涼しさを(場合によっては寒さを)感じるようになるかと思います。これは、人が輻射する熱エネルギーを、周囲にある洞窟(岩石)が熱吸収し、効率よく熱吸収が行われている事によるものです。更に、洞窟壁面から、上下左右から輻射熱が放射され吸収され、冷却効果は抜群となります。洞窟は、水分を多く含んだ土、岩石が多いので、輻射率は人と同程度です。

図4 洞窟に入った時

輻射パネルでも、同様な環境は作れますが、壁、天井、床面すべて輻射パネルを設置する事になり、使用できる空間にはなりません。快適な空間実現には、輻射パネルの設置場所、位置、枚数等を考慮する必要がでてきます。

輻射パネルは、アルミニウムですが、自然の洞窟は、噴火等の堆積物が侵食され形成され成分は異なります。また、人工の洞窟や建物は、コンクリート、花崗岩等で造られていますので、表1の材料による輻射率(吸収率)を覚えておいて体感するのもよいかもしれません。

図5 反射熱

アルミニウムの研磨板(箔)は、輻射率は0.05(表1より)と大変小さく、輻射エネルギーをほぼ全て反射してしまいます。太陽光の輻射熱を反射するため、宇宙服の表面に使用されています。 研磨面のアルミ板(箔)を使用すると、輻射熱エネルギーは、板面で反射される事になります。反射された輻射エネルギーは、反転して人体に戻り、この輻射エネルギーを人は吸収することになり、冷却ではなく保温された状態になります。   

おわりに

今回は輻射熱エネルギーによる冷房のイメージを説明しました。輻射冷暖房が優しく感じられるのは、人体が輻射する熱エネルギーを輻射パネルが吸収しその熱を排出する事で、人に冷房の負荷をかけていない点にあります。

アルミニウムにアルマイト加工や塗装等の表面処理した表面積が大きい輻射パネルは、輻射熱エネルギーの放出だけでなく熱吸収も効果的であり、優れた輻射熱冷暖房を実現しています。

次回は、結露に関して記載します。

著者紹介
雫二公雄

株式会社シアーコーポレーション 技術顧問

日立製作所でインターネット等情報関係分野を担当し、その後、中堅企業にて金属表面改質技術の研究開発を取り纏めた後、ベンチャーや大学、研究機関等の新技術の事業性評価や管理を担当。現在は、半導体関係、二次電池、中小企業事業性評価支援等を推進している。シアーコーポレーションの技術顧問の他にも、日立ITユーザ会社会システム分科会長、長崎県ロボット事業県都委員会検討委員、一般社団法人日本ゲルマニウム研究学会理事長などを務め、輻射冷暖房の普及に取り組んでいます。

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