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輻射パネル冷暖房の原理と特徴|THEAR

ブログ・コラム2022/05/18

輻射冷暖房の能力

前回までのコラムでは、遠赤外線暖房と熱対流のメカニズムと特徴を解説しました。今回は、それらを組み合わせた輻射冷暖房の能力に関して紹介します。

輻射と対流熱との組み合わせ

熱の伝達には、物体に直接触れて伝達する伝導熱、物体が気化する事で発生する気化熱(蒸発熱)もあります。伝導熱は、床暖房で活用され、気化熱は打ち水が身近な冷暖房になります。

輻射冷暖房システムは、前回までのコラムで解説しましたように、物体(輻射パネル)から放射される遠赤外線による輻射熱と、物体(輻射パネル)表面の温度変化による流体自体の移動による熱の伝達(対流熱)を組み合わせて活用する事になります。

輻射熱エネルギー

物質から輻射されるエネルギー量(E)は、ステファンボルツマンの法則で表わされます。

これを、実際に使用される輻射パネルに応用してみたいと思います。

輻射パネルは、樹脂、金属材料等を使用し、円筒、平面等の形状を構成しています。輻射熱は、物体表面から輻射されるので、輻射熱エネルギーを交換する物体同士の幾何学的位置関係も実際の計算には必要となります。

輻射パネルからの輻射熱エネルギー(Q)は、ステファンボルツマンの法則を基に、これらの係数を反映したのが下記計算式となります。

上記によって輻射パネルのエネルギー計算ができます。

物体の輻射率は、物質の素材と表面状態で決まります。おおよその輻射率をしましたのが

表1です。

表1 材質によるおおよその輻射率(ε)

研磨された表面より、酸化、塗料塗布した表面の方が、輻射率が高くなります。
形態係数は、熱エネルギーを交換する物体同士の2つの面の位置関係を表わす係数となります。一方の面からもう一方の面がどれくらい見えるかを表わした係数で、0~1の値をとります。

ふたつの物体間に輻射熱を遮断する壁がある場合は、直接の熱放射は発生しません。この場合、形態係数は、F12=0となります。例として、黒体が図1の位置関係にある場合を考えてみます。

図1 位置と形態による形態係数の相違

形態係数は、MatLab等を活用する事によりシミュレーション可能であるが、複雑になるのでここでは割愛する。位置関係等が決まれば定数と考え先に進める。
輻射エネルギー(Q)は、上記計算式から、輻射パネルの表面積(A)と輻射率(ε)に比例するので、表面積をいかにおおくするかが重要な要素となる。

対流熱エネルギー

対流エネルギー(Q)は前回コラムで解説しましたニュートンの冷却法則で算出できます。

熱伝達率(α)は、流速や圧力及び表面形状により変化しますが、おおよそ下記範囲となります。

簡易計算式として、科学計算ツール自然対流伝達が下記URLから計算できます。
https://cattech-lab.com/science-tools/ht-natural/ 
例:温度差7℃で、空気中に長さ2mの板を垂直に設置時、α=2.312。

自然対流エネルギーは、ニュートンの法則から、伝熱面積をいかにおおきくするかが重要な要素になります。前回コラムでも紹介しましたが、表面をフィン形状にする事が効果的だと言う事がお判りいただけたかと思います。

JISで制定された輻射能力試験

輻射エネルギーを活用した輻射冷暖房システムの暖房能力に関しては、日本工業規格(JIS)で定められる性能試験方法に基づき試験されている。

関連する規格及び引用規格として下記がある。

◆JIS A1400 

:暖房用自然対流・放射形放熱器-性能試験方法

◆JIS A4004 

:暖房用自然対流・放射形放熱器-種類及び要求事項

◆JIS Z8704 

:温度測定方法-電気的方法

適用範囲は、「この規格は、暖房用自然対流・放射形放射器(以下、放熱器)の性能試験方法について規定されたもので、性能試験時に放熱器に供給される温水又は蒸気の温度及び圧力の限度は、放熱器ごとに製造業者の定める値(最高使用温度及び最高使用圧力)以下とする。」とされている。

試験方法の概要

試験は、①温水を熱媒とする放熱能力、②蒸気を熱媒とする放熱能力、③放射計を使用する放射放熱能力の3方式により、測定し能力をもとめることとなっている。

放射計を使用する試験方法は、パネル形状が平板又は平板に近い形状をもつ、温水用パネルラジエータに適用されている。

この性能試験で得られた指標を基に、建築施工に落とし込み設置場所、部屋の大きさに応じた輻射パネルの選定等に活用している。施工に関するコラムを参照お願いします。

輻射冷暖房パネルの解析

シュミュレータを使用し輻射パネルの温度解析例を、平均輻射温度分布、温度気流を紹介します。

図4 解析モデル例 
(輻射パネル40℃、床温度22℃、天井温度24℃、壁面22~24℃、ガラスドア18.5℃)

輻射パネルから放射状に輻射温度が広がっています。パネル付近で体感温度が上昇しています。(b)表面輻射熱熱流束は、パネル表面から熱を室内に放射し、赤い程に熱を吸収しています。輻射パネルと天井から熱を放射し床とガラスドアから熱が吸収されている様子がうかがえます。(c)

空気温度は、対流により上下方向に分布しているが、水平方向ではほぼ一様な温度分布である様子が見られる。輻射パネル手前で暖められた空気が上昇し、ドアガラス表面で冷やされて下降するという気流場が形成されています。(d)  このように、輻射パネルは、輻射熱エネルギーと対流熱エネルギーをバランス良く活用する事で、平均輻射温度分布と上下気流場により、効率的な空間輻射冷暖房の実現ができる事を示唆しています。

まとめ

輻射冷暖房は、輻射エネルギー(Q)と対流エネルギー(Q)を効率的に活用する事が大切である事がおわかりいただけたでしょうか。この輻射、対流エネルギーは、各々表面積に比例しますので、材質が同じであれば、いかに表面積を大きくするかが能力向上の要となります。輻射冷暖房システム導入の際は、輻射パネルの形状だけでなく、色合いやどのように表面積を拡張し、意匠・デザイン性能を充実させているかが大切だと考えます。

おまけ

1)輻射能力を高めるための輻射パネル表面積の稼ぎ方

断面積から見ると、一辺=Lの場合、円形=πL、正方形=4L、フィン=10Lとなる。形態係数は全面平板であれば、F12=1が確保でき、熱エネルギーはほぼ吸収できる。さらに、夫々の表面に、クレータやスリットを加工する事で、表面積を稼ぐことが可能と思える。ただ、加工は大変となるので、デザイン面含め考慮も必要と思われます。

2)対流熱エネルギー能力向上の表面積の稼ぎ方 

対流熱は、下から上へと対流するので、幅は一定なので高ければその能力は向上する。さらに、平板に上下方向にフィンを付加し、表面積を稼ぐとともに、空気流の誘導で対流効果を促進することが実現できる。

金属及び樹脂材料の表面処理は、表面積を稼ぐだけでなく、材料の特性変化を期待した表面改質技術の研究開発が盛んです。半導体のように微細加工するために鏡面加工仕上げや、摩擦を軽減するために、ナノクレータを生成させ摺動性を向上しています。人の目では、見わけがつきませんが、やはり素材、製品の見た目は大切です。

著者紹介
雫二公雄

株式会社シアーコーポレーション 技術顧問

日立製作所でインターネット等情報関係分野を担当し、その後、中堅企業にて金属表面改質技術の研究開発を取り纏めた後、ベンチャーや大学、研究機関等の新技術の事業性評価や管理を担当。現在は、半導体関係、二次電池、中小企業事業性評価支援等を推進している。シアーコーポレーションの技術顧問の他にも、日立ITユーザ会社会システム分科会長、長崎県ロボット事業県都委員会検討委員、一般社団法人日本ゲルマニウム研究学会理事長などを務め、輻射冷暖房の普及に取り組んでいます。

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